指の形

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「にいさん!」

 叫びが喉を裂いたところで目が覚めた。消毒液のつんとする匂いでいっぱい。いつもの部屋だけれど、違う違うと心臓が暴れている。――心臓! はっとして右を見る。そこにはただしきが白くあるだけ。胸がひゅっと暗闇に食まれる。体ががたがた震えて歯がひとりでに鳴りだす。ぬくもりを求めるように敷布をさぐる、その右手にくっきりした指のあとがあった。
「…………」
 うす青い形を指でなぞる。喉の奥から熱いものがじりじりと上がってきた。

***

 点滴の針が抜ける。気分はよくなくて油断したらまた吐きそうだったけれど、頼み込んで車椅子でにいさんに会わせてもらった。
 寒い部屋ににいさんは小さく白く横たわっていた。
 唇にはほとんど色がなくて少し開き気味になっている。まぶたは眠るようにやわらかく下りている。
 毛布をまくると、左手は何かをつかんだ形のままに固まっていた。こわごわその手を取り上げて自分の右手に当ててみる。にいさんの指は痣の上にするりと乗ってきた。
 涙がほろほろとこぼれる。
 にいさんはぼくを連れていこうとしたのだろうか。
 ぼくはにいさんの手を振り払ったのだろうか。
 歯を食いしばっても泣くのは止まりそうにない。涙はにいさんの冷たい指にも落ちた。
 ぼくはにいさんと一緒に死ぬべきだったのだろうか。
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