002.何度でも繰り返す

戻る
 なんだか繰り返し死ぬことに夢中。どんなやり方でもいいから命を塵にする。いろんなものがわからなくなって目の前に靄が掛かっていく、それを何度でも味わう。血が出る。流れ出た血というぼくが床に広がる。床じゅうに広がるぼく。ぼくという区切りが消えていく。ぼくだったものが世界の中に溶けていく。ぼくと世界の境目は揺らいで、ふたたび世界へかえる。それが言いしれぬ幸せとなって、胸をいくらか満たす。死ぬことは世界とひとつになること。世界とひとつになることは彼女とひとつになること。だって彼女はずっと分かたれずにいた世界の一部。だから死ぬことで欠落を少しだけ埋められるような気がする。死ぬことは、遠すぎる道の中のなぐさめ。
 ああ血がたくさん出る。また死ぬのだろう。世界の中にあたたかくとけて、ただ感覚球が世界を吸って吐く音だけが髪やはだや耳にふれ、それもいつしか水の中ににじんで、こぽりとあわのむれがのぼっていったきり、もうなにもなみはやってこず、みずのなかにうかび、せかいにひろがっていく、せかいとひとつになる、ああ、ああ、なんてしあわせ。

 けれどそんなみずのなかから、まえぶれなくつめたいてにひきずりだされる。ぼくはぼくになる。ぼくと世界との間に深い虚のような溝がうまれる。まただ。何度死んでもぼくは連れ戻される。生まれ直させられる。空気の流れに肌を削られながら、ぼくは胸に走る痛みのままに声を上げる。
 おぎゃあ。
戻る ページの先頭へ